いつもより、クラスメイトの声の色彩が違って聞こえる。きっとこの色はピンクとか、そういう色だ。相手を意識して顔の筋肉をうまく動かせていない人なんかもいて、思わずこっちが幸せになる。個人的にこの日は(男のクセに)客観的にみてしまう日なので、普段より幸せボトルは埋まっていく。チョコを貰えるか意識したりする可愛い要素が掛けているなぁ、なんて思ったりもする。そんなことを思っていると、があの見馴れた、口角がきゅっとつり上がった笑みを浮かべた。
この瞬間、幸せボトルが満タンになったことを感じた。
とはいわゆる幼なじみ。昔っから一緒だった。家も目の前だし、産まれた病院も同じだ。家族ぐるみで仲が良いし、いきなりうちに入って来るのだって普通だ。他人だけど、他人じゃないみたいな、変な関係だと思う。
次の授業(6限)が音楽なので、いっせいにクラスメイトが教室から出ていった。その波に乗って歩いていると田島と泉と三橋に遭遇した。
「あ!栄口、あの子からチョコもらった!?えーと、あの、」
「だろ。今ちょうどその話ししてたんだよ。な、三橋」
「う、うん…っ!」
勢いよく飛んできた問いを「もらってないよ」の一言で片付けた。声がでかいことは、なんとなく喉で止めた。
「えっ、マジ!?つか結局お前らって付き合ってんの?付き合ってないの?」
「付き合ってないよ。幼なじみってだけ」
「えぇー!!でも部活ない日とか一緒に帰ったりしてんじゃんよー!昼休みもお前が寝てる前の席を…こう、後ろ向き?にして!音楽聞きながらケータイいじって座ってたりっ!」
…詳しいなァ。そんな目立つかな?まぁ知り合いだったら目につくか。はさみしがりだから、何か嫌なことがあるといつでも近くにくる。何を言う訳でもなく、まるで空気のようにそこにいる。
なんだかメンドーになってきたので、笑顔で流して音楽室へ向かった。後ろから「なんだよーっ!!」と聞こえたけれど、聞こえないふり。聞こえないふり。
オレはたぶん、が好きだ。いつからかなと考えると…小学3年生のときの飼い猫が死んだときにあまりに大胆に泣く姿を見て、“一生の前から消えないであげよう”と思ったときからかもしれない、と思う。
14日の日曜日、弟とテレビ番組をたい焼きを食べながら観ていた。罰ゲームで熱々のおでんを芸人が食べさせられていた。同じ食べ物なのにたい焼きとは大違いだと思う。
「なんか…日本って平和だよね」
「平和じゃないよ、こんな熱いの食べさせて!オレ芸人にはなれないやー」
「あはは!お前みたいな甘えん坊には無理だな!」
その言葉に反抗する声とたい焼きを羨む声が重なった。知らぬ間にがうちに来ていた。
バレンタインはチョコレートをくれるかわりにうちに一泊するのが恒例イベントなのだ。(だから毎年学校では貰わない)
14日が日曜日の今年は2時を過ぎた今登頂した。90メートルくらい歩いて。
「今年のチョコ、なんだと思う?」
「そのおっきい紙袋から見て…ケーキ」
「なーんだ、つまんないのぉ」
荷物をソファーに置き、コートと手袋とピンク色の耳あてを外した。こんな近いのに厳重だなぁ。そろそろ買い替えようかと思うやつれた冷蔵庫にケーキを入れ、隣に座った。その間に弟が人生ゲームを引っ張りだしてきたので姉キと4人でバーチャル人生をスタートさせた。
とオレは順調に人生を歩み、お互いに結婚した。(オレのが後だけど)
「勇人とが結婚してくれたら安心なんだけどなぁ」
ふいに、姉きがそんなことを言った。
「いいかもね。勇人といると落ち着くし。学校でもそばにいなきゃなんかダメだって思うときあるもの」
が真顔でそう言った。正直オレもそれは名案だと思った。
「へぇー、だってよ勇人。よかったね」
「ぇ、なんだよそれ」
冗談みたいな話しだったので、弟が話しに着いていけなくて少し機嫌が悪くなったことを合図にこの話しは終わった。そして長い時間をかけて4人の人生は幕を閉じた。
「あのね」
ちょうどゲーム用のお金を片付けているときに、が切り出した。
「さっき結婚の話しになったでしょう?それでわかったの」
「なにが?」
「わかったっていうか…名前がついたの。私の勇人に持つ感情に。たぶんね、“好き”なんだ」
さすがに焦った。なに言ってるんだこの子!ぼんやりした口調で言ってるけど内容が凄い変だよ!?
「“好き”とか“愛”とか、その辺かなー。ちなみに他の人とは違う意味でね?
」
「えぇー!!知らなかった!!ちょっとゆーと!どうするの!?」
「どうするって…」
1つ呼吸をおいて、言った。
「オレも好きだよ」
「えぇー!うそ、勇人とが両想い!?私全然知らなかっ…お父さーん!たいへー
ん!」
「ねぇ待ってよ!!どーしたの!?どーしたの!?」
2階で昼寝をしていた親父のもとへ姉きが走っていった。それに弟もついていった。3秒の沈黙のあとと目が合い、微笑んだ。
と気持ちが通じ合えたことがとてもとても幸せに思う。オレはこの子に人生を捧げよう。そう心に決めた。この決意は、大好きだったあの人が逝ってしまったときに感じた、“この家族を守り続けよう”と決めたときと似ていた。あのときも今も、妙な自信があった。
騒ぎながら3人が上から降りてきた。
「お祝いにケーキ食べよーよ!お父さんも食べるでしょう?」
「食べる食べる。ちゃんのケーキなんて久しぶりだなぁ」
「オレが切る!!」
「だーめ!絶対ぐちゃぐちゃにするもん!今年は自信作なんだからぁ」
ちょっと先の未来
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