今日、人生で16回目のバレンタインデーを向かえた。と、いうのは嘘で、今日は15日だ。今年の14日は日曜日だからみんな今日を代理日とするらしく、私もちゃんと昨日の夜作ってきた。ちなみに私の恋焦がれる人はただいま(昼休み)『天才バカボン』のテーマソングをウキウキで歌っている。
「てーんさーい いーっかだっ!」
なぜだ。
「バーカボンっボンっ!」
なぜ、今日、バカボンなんだ?…面白すぎる。私はクラスメイトに混じって彼をみて笑っていた。
自分で言うのもなんだけど、私はおとなしい人だ。でもひどくおとなしいという訳でもなく、クラスの男子と会話したりは並にできる。楽しそうに歌い終えた田島くんにクラスで一番元気な女の子がツッコミを入れているけれど、あれはできない。
「だってー!英単語テスト10点だったんだもん!」
彼はそう答えた。でも15点満点の10点だし、まあまあなできだと思うんだけど。私なんか6点だったし。そう思うのは私が勉強が苦手だからだろうか?
とりあえず、たまに話しはするけど積極的ではない私にとって同じクラスなだけ感謝!神様が本当にいるならば礼を言おう!
とかなんとかアホらしい事を思っていたとき、紙袋が目についた。その紙袋は私が昨日作った30個程のチョコレートが溢れんばかりに詰め込まれていた。クラスの子への友チョコ、部活の子への友チョコだ。
「はい!!愛してるよ!」
「おぉー?ありがとうー!」
本日初の友チョコだった。それは毎年流行るインフルエンザのように広まり、みんなチョコを交換し始めた。お菓子作りはわりかし好きだから苦じゃないけど、ちょこっと疲れた。ちょこっと嫌になった。だって部活後に作ったから昨日寝るの遅くなっちゃったし。どうせ、あの天才バカボンのテーマソングを今だ歌っている彼には渡せないし。なーんて思っている目のはしっこでたくさんチョコを貰っている田島くんを見ていた。歌の途中でチョコレートをくれた女の子へ「ありがとう!!」という言葉が何度か挟まっていた。そのセリフ付きの歌は耳の奥にぺっとりくっついた。
実は、この紙袋の中に彼へのチョコがある。考えただけでぐんぐん血が昇る。あー、私なにやってんだろ。でも…渡したい!そう思うと血が昇るついでに涙もでそうになるけど、私は人生でこの日くらい頑張ってみようと決心した。
あのノリで渡してる人たちに混じって渡そうかな。…うぅ、できない。こんなに自分のチキンっぷりを呪う日がくるとは思っていなかった。
色々考えた結果、昼休みはおろか授業と部活まで終わった。落胆した。結局、みんなが帰ったあと、人がいないのを確認して彼の下駄箱の中にピンクの可愛らしい包みに入ったチョコレートを放りこんだ。バンッと扉を閉めて、やってのけた安心感と意外と1つも入ってなかったことに対して生暖かい息を吐いた。
いいのよ、もう。下駄箱って汚いけどさ。ちゃんと包みに入ってるし。それにそんなの田島くんは気にしないわよ。ていうか王道すぎて今時誰もやらないよね。でも私はやった。これしか私にはできないんだから、いいじゃない!
夜道を小走り、というより走っていた私の足が急ブレーキをかけた。
…名前、書いてない。
もう面白かった。夜で誰もいない事をいいことに私は遠慮せずに笑った。
もういいや!私はやるだけのことはやった!それに発信源のわからないチョコレートを彼はきっと気持ち悪がったりしない。
にこにこのお顔でアスファルトを踏んだ。そしてクリアな空気が流れる夜空に向かって私は言った。白い息がとても綺麗だった。
「これでいいのだ!!」
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