「。お茶入れて」
「はい、 今、入れてきますね」
不味いお茶と応接室と雲雀さん
湯気の立つコップをこぼさないようにと慎重に、でも素早く運ぶ。前にこぼしたとき怒らてから、かなり神経質になった。かといってゆっくり持ってくると、「遅い」って言われし。その上「冷めたからもう一回淹れてこい」なんて命令を平気でする。実際のとこ、そんな冷めてないのに。
私は一般の生徒に比べたら、雲雀さんを恐れていないと思う。でも、あの恐怖は忘れられない。トラウマものだ。別にすごくドジではないと思う。転ぶのだってフツウに生きてればそんなに無い。なのに、よりにとってあの日。机で作業をする雲雀さんにお茶を出そうとしたとき、それはもう盛大にコケてしまった。雲雀さんには、かからなかったものの、そのかわりに机と委員会の書類が犠牲となった。雲雀さんは声を荒げるでも無く、でも背中には黒いオーラをしっかり背負っている。そして、目の前の机の上にぶちまけたお茶とコップ一瞥し、一つ一つ問い詰めてきた。
「…これは何?」
「えっ…と、お茶…のはずです…」
「ふうん、お茶って机に広がってるものなんだ」
「ぃゃ…それは…」
確かに机の上には見事にお茶が領地を広げていた。雲雀さんがその無残な光景から視線を外して私を睨んできた。今にもトンファーを構えてきそうな勢いである。そして地獄から這い上がるような(私にはそう聞こえた)いつも以上に低くて棘のある声で言う。
「…君は、お茶もろくに運べない訳?」
え…怖いんですけど…。あまりの恐怖に脳の回路がシャットダウンした。私は睨まれて微塵も動けずに固まっていた。さしずめ、私がカエル、彼がヘビ、と言ったところか。そして悲しいことに、いつも理不尽すぎると思われる委員長様の言い分はその時ばかりは正しかった。
その後、急いで机の上を拭いて、書類を作り直し、ひたすら謝り通してやっとのことで、トンファーでフルボッコの刑は免れた。確かにあれは100%私が悪いのだけど、そこまで怒らなくても…と、思う。ただでさえ、雲雀さんは恐いんだから、怒るときは10%ぐらいにしてほしい。それでも十分すぎるほどだ。なんて、勝手なことを思ったりした。
と、このような恐怖体験があったので、お茶を運ぶときはいつでも神経質になった。コケませんようにー、コケませんようにー。と心の中で神様にお祈りしながら運ぶ。仕事の邪魔にならないようにと、机の空いているところにそっと置いた。よしおわった!こぼさなくてよかった!と一人、満足感に浸った。そんな私に思いっきり水を差すように、そしてトラウマを思い出させるような、低い声が聞こえた。
「………不味い。」
「なっ!?」
いきなり聞こえた雲雀さんの声、もとい文句に思わず声が出た。そんなことはお構いなしに雲雀さんが容赦なしに文句を浴びせる。
「不味いにも程があるよ。草壁が入れるのより酷い。どうしたらこんなのが出来る訳?」
失礼な!!普通そこまで言う!?お茶なんて飲めりゃいいじゃない!!
‥‥なんてとてもじゃないけど怖くて言えないので、とりあえず「すみません」とだけ謝る。雲雀さんに背中を向けた瞬間、すっごい小声でボソッと反抗してみた。
「…だったら自分で入れたらいいじゃないですか」
「ワオ。僕に逆らうなんていい度胸だね」
何 故 に 聞 こ え る !?
「いえっ!!滅相もございません!失礼しますっ!!!!」
あの人の聴力は人間じゃない!!相手が喋る暇も無いくらいに早口でまくし立てる。泣きたくなりながらも、その場にいたら咬み殺される可能性が高いので、全力ダッシュで逃げておきました…。
「とは言ってもなぁ。確かにお茶一杯まともに入れられないのは…ちょっと…」
と言うことで家に帰ったあと家にあるお母さんの雑誌を見てみる事にした。紅茶なんてさらさら興味が無かった私には、初めて知るようなことばかりだ。
「フンフン…水を一度沸騰させるのか…
おぉ、このアクがおいしくない原因かぁ。
へぇ!お湯をゆっくり落とした方がまろやかになるんだ!」
部屋で大きい独り言で感動していたら、
あとでお母さんに「。頭、平気?」って聞かれた。。。
…そして決戦の日。よし今日こそは!ちゃんと勉強したし!もう不味いだなんて言わせるか!!
「、お茶」
よし来た!緊張しながら机の上に差し出す。いつもは、こぼさないで運べるかって事で緊張してるんだけど、今日は、不味い。って言われないかのほうが気になった。大丈夫。昨日みた本の通りにやったし…
「雲雀さん、どうぞ」
「ん」
雲雀さんは小さく返事をしながら、受け取ったマグカップをゆっくり傾けて、ひとくち飲んだ。横目で、不自然に思われないように、でもしっかりその様子を見守る。
「…ど、どうですか?」
小さい声で感想を求める。雲雀さんが優雅に机にマグカップを置いて一言。
「不味い。」
ガーン!!即答!!
雲雀さんはわざと聞こえるように溜め息を吐く。機嫌悪そうな顔で。
「まったく…お茶もろくに運べないし。」
…まだ根に持ってんのか。雲雀さんって意外としつこい…。
「味も、草壁と似たような物だよ」
むしろ昨日より酷く言われてる気がする。頑張ったのに。あたしの努力って一体…。
あ、でも昨日は『草壁より不味い』って言ってたよね。前よりはよくなった。ってこと?
―――…‥普通に言ってくれればいいのに。
そう思いながらも嬉しさで笑みがこぼれそうだった。大分遠まわしだけど、雲雀さんなりに誉めてくれてるんだよね。素直に言わないのが、なんか…かわいいなぁ。かわいいなんて口に出して言ったら 咬み殺される決定だけどね。。。雲雀さんの言葉を何回も頭でリピートして、ニヤケながら仕事を続ける。もちろん雲雀さんからは見えないように。
そこで、ふと思った。頭で繰り返し再生してる言葉。『味も、草壁と似たような物だよ』
そこまで『不味い』って激しく即答される草壁さんのお茶って一体どんなものなのか。
そんな酷いのかな?内容が内容だけに果たして聞いていいのか…。
でも聞いてみたいな。うーん。でも…。
結局、好奇心には勝てなかった。
「ぁ、あの…」
「何?」
「く、草壁さんのお茶ってそんなに…その‥…不味いんですか?」
意を決して(と言っても小さい声だけど)もうとっくに作業を再開している雲雀さんに聞いてみた。雲雀さんは目線は机の上のまま、心なしか、少しうんざりしているような声で答えた。
「草壁はその事に関しては天才的に下手だよ」
んなぁ!? そこまで!?
…どんな味するんだよ…。雲雀さんもよくそんなもの飲むなぁ…。
あ、そんなものって言っちゃった。思わず遠い目をしている自分が居た。
――――――…ん?待てよ?
それって、遠まわしにあたしが出したお茶も否定してるよね!?くる、っと振り返って雲雀さんを見るとあたしの顔を見て、小馬鹿にするように鼻で笑う姿があった。そして、何事も無かったかのように書類に目を向ける。なんて憎たらしい……!カチンと来たが、それはすぐに収まった。その代わりといったように何だか、思わず溜め息が出た。
かわいい訳なかった…。
…やっぱり 雲雀さんは雲雀さんだ。
あとがき。
草壁さんのお茶は実際にはそんな不味くないと思います。
そんなもん出したらきっと とっくに咬み殺されていると思います。
まぁ ようは『雲雀さんがツンデレって素晴らしいね☆』っていう話です←