夏休み最後の日。別名、宿題に終われる日。奴にとってこの日は地獄の1日になることが毎年お決まりだった。だけど、今年は違う!その前に終わらせる!と夏休み前に高々と宣言。したにも関わらず…


「文貴のバカ!」

「ごめん!ホントに!」


駄目だった。あぁ、もう最悪。今日は「文貴」と呼ぶようになってから丁度1年経つ日なのに。まぁ、つまり、今日で付き合い始めて1年経つ。

中学最後の、しかも夏休み最後の日に、クラスで花火をすることになった。会場は中学校から少しだけ歩いたところにあるお馴染みの公園。錆びた鉄棒とすべり台。普段は景色となっているこの公園も、今日みたいな日にはみんな元気よく遊び始める。ブランコなんか争奪戦だ。受験生だったし、勉強のストレスを発散させる良いイベントだった。その中で文貴は遅れて登場。自転車を爆走させて来たので、汗の蛇口は全開のようだった。

「文貴おせぇーよ!」

彼はクラスの中心に経つ立場だったので、みんな彼の登場を待っていた。笑いながら夏期講習の最終日だったからという理由と共に謝った。たったそれだけの言葉を口にしただけでウケが取れる、不思議な人だ。

私は彼に惚れていた。視界に入るだけで心が安らぐ存在だった。だから彼が登場するこの時、この瞬間を待ちに待っていた。もう花火どころではない。私服を着て無邪気に次から次へと花火に着火する姿はきっとこの先見られないだろう。そう思うと目が離せなかった。
でも、何もせず突っ立っているのは不自然なので、ゆっくりとしたペースで花火に火を灯した。やわらかく吹く藍色の風を頬で感じ、目を細めた。色が赤から緑、白に変化する花火の火が消え、バケツに入れた。水面と接触したとき、ジュッと音が鳴った。私はこの音が何だかとても好きだった。私の中で夏を感じる音の中の1つなのだ。


、見て!」


下を向いていた頭をいきなり上にやったせいもあると思うが、一瞬目まいがした。さっきまで向こうに居た水谷文貴がここにいる。びっくりして声帯がおかしくなってしまった。声を出す事ができなくて口をぱくぱくさせている私をよそに、彼は持っていた花火をバケツに突っ込んだ。まだ綺麗な火を噴いているのに。しかし、水の中に入れられた花火は美しさを保って見せた。不思議だった。水のなかで光が反射してとても綺麗だ。当然、すぐにその光景はピリオドを打った。水の中にあるのだから当たり前だ。1つため息を吐いて、彼を見ると、目が合った。今までずっと花火のおかげで動く事を忘れていた心臓が一気に全力で動き出した。そんなに頑張らなくてもいいよ、私の心臓。元気がよすぎて苦しいから。一方、彼は何か言いたげにした。数秒経って、泳いでいた目が私を捕らえた。


「好き、だった。ずっと」


また、目まいがした。

あの日から1年。早いなぁ。もちろん私は文貴の言葉にうなずき、彼は大喜びした。みんなの下へ走って行き、私達のスタートを宣言した。「受験前に何なんだ!」と多くの人が言ったけれど、2人とも志望校に受かる事も宣言した。
でも、文貴はぎりぎりまであまり勉強に身が入っているように見えなかった。まあ、勉強好きな人じゃないからね。でも本当に心配だった。私の志望校は西浦より若干上のレベルの高校。大した差はないけど、家から近いってことで決めた。文貴と同じ高校に行きたい気持ちもあったけれど、ここはしっかり「自分」を持って判断しなければ、と思ってそうはしなかった。
受験までの道のりは、今思えば短かったと思う。文貴がいたからだと思う私は、のろけているのだろうか。

私達はよく喧嘩をする。受験前は特に頻繁に喧嘩をした。昼休みに文貴が私に話しかけているのに、適当な合図地しかしないで単語を覚えていて怒らせたこともあった。あの時は勉強しない文貴にイライラしていたから少し冷たくしたのだ。あの喧嘩の寿命は長かった。彼も私も意地をしっかりと張った。でもそれから文貴が少し勉強を頑張るようになり、私が謝ったことでその喧嘩の命は儚く消えた。
そんな風に私達は続いている。色々なことがあるけれど、結局嫌いにはなれない。それはどんな数学の問題より難題だと思う。夏休みに入る前に「31日は開けておく」と言ったくせに駄目だったけど、それでも嫌いにはならない。ムカつくけど。今日はお母さんに終わるまで家から出さないと言われたらしい。部活大変なのは重々承知だけれど…アホ。どれくらい残ってるのか知らないけど、奴のことだ。だいぶ残っているに違いない。

そう思ってため息をついた時、ケータイが鳴った。文貴だ。
送られてきた文章を読んだと同時に、私は部屋を出た。


約束守ったぞ!今、宿題終わった!
また今年も花火しよう。
今すぐ公園集合!
             文貴


あぁ、これだから、嫌いになれない。








-Powered by HTML DWARF-