涙は夕日に照らされて、琥珀色に淡く光っていて、まるで透き通った綺麗な蜂蜜のように、ひどく優しく甘く感じた。


はめったに泣かない。らしい。でも、いつも笑ってるかと思えば、オレの前だと、とたんに涙をこぼしたりする。クラスメイトにも、はいつも笑ってて底抜けに明るいと言われてるけど、泣かないのは外だけで、むしろ何にでもすぐ泣く気がする。オレにだったら、ぐしゃぐしゃな、みっともない泣き顔を見られてもどうでもいいと思ってるのかもしれない。確かに小さい頃からずっと一緒にいるんだから、今更気にすることでもないと思う。

いつもが泣くときは、いつだって自分じゃない何かの為に泣いていた。大声を出して泣いたり、静かに涙を流したり。例えばそれは、失恋した友達の為だとか、テレビに映る戦争に巻き込まれた子供の為だとか。
あとは、オレの為だとか。色々あったけど、やっぱりオレは、は人の為に泣いているように見えた。

そしては嘘をつくのも下手だった。嘘をつくにしても、あまりに突拍子も無いことを言うから、の嘘には現実味が足りないかんじがした。

むかしから、とことん不器用な性格だった。


今日は、最後の試合だった。今年はもう、受験生と呼ばれる年だから、シニアでは最後になる。そのシニアの最後の試合の帰り道。実際にたたかって負けたのはオレなのに、のほうが泣いていた。だから、なんだか泣くに泣けないと思った。たしか去年もそうだったな。と同じようにこの道を歩いたことを思い出した。もしかしたら、おととしもそうだったかもしれない。この道は、この時間になると人通りが少なくなる。車もほとんど通ることがない細い道なのをいいことに、二人で道のど真ん中を歩く。そして、いつもはぐずぐず泣きながら歩くから、ごく稀に通る通行人に怪訝な顔をされたこともあった。でも、それが嫌だと感じたことは一度も無かった。が泣いてくれることで、悲しみも悔しさも薄れるような気がするからだ。






―――子供のころ、オレのお母さんが死んだ。とに言ったとき、はオレより泣いていた。
家の近くの公園は、ブランコと砂場くらいしか無かった小さい公園だったけど、よくや近所の子と遊びに行っていた。でも、夕方にもなると誰も居なくて、とオレの影だけが伸びていた。水色のブランコが、ぎぃぎぃ音を立てながら少し揺れていた。は目を真っ赤に腫らして、顔は涙でぐしゃぐしゃで、お気に入りだとか言ってた黄色いワンピースも涙の染みが点々と広がっていた。それでも、体中の水分を全部出し切ってしまうんじゃないかと思うほど、ずっと泣いていた。

「どーして、がないてるの?」

「…ひっ…くっ、おひさまがっ、し、しずんじゃうからっ」

思いっきり泣いて、嗚咽のせいで思うように喋れなくて。それどころか、息をするのも精一杯そうだった。
それでも必死に言葉を紡いでいた。多分、はオレの為に、オレの代わりに泣いてたんだと思う。悲しくて悲しくて、泣きたくても涙が涸れて、どーしよーもなかったオレの代わりに泣いてくれていたんだと思う。でも、は、泣いている理由を問えば、夕日が沈むせいだと言った。オレの代わりに泣いてくれて、でも、それを言わないで嘘をついた。突拍子もない、ずいぶん下手な嘘だったけど、優しい、本当に優しいひとだと思った。







―――「なんで、が泣いてんの?」

足元より少し先の道路に白く縦長に書かれた「とまれ」の文字がゆっくり近づいてくるのをなんとなく目で追いながら、オレはまたあの時と同じ、子供のときと同じように訊いた。下をむいて左手で涙を拭いながら、息を整えるように深く空気を吸い込む音を左耳で聞いた。がその時のことを覚えていて同じように答えたのかはわからないけど、もオレの質問にあの時と同じように答えた。

「えー?…なんか、夕陽が沈むなぁー、って思って。」

また、突拍子もない下手な嘘をつく。交互に出されていた足をそろえてゆっくり立ち止まった。手のひらで軽く目を覆って、少し震えた声でが答えた。顔は手で覆われているから見えないけど、多分ぐしゃぐしゃな泣き顔なんだろう。雫が頬を伝って落ちる。涙がしょっぱいのは常識として知っているけど、きらきら琥珀色に光る綺麗なこの涙は、蜂蜜のように甘いんじゃないのか。なんてぼんやり思いながら、その繰り返される作業をオレは数秒見つめた。そして、少し震えてる、オレより小さい右手を子供のころのように握って、ただ黙って真っ赤な空を眺めた。

がオレの為に泣くなら、オレは、の為に笑うことにしようと思った。


。オレ、高校でも野球やるから。」

「…うん。」

「また、見に来てよ。」

「行く。絶対。」


目の前に広がる真っ赤に焼けた空は、少し、涙で滲んでいた。






涙 色 ス カ イ


You cry for me. I smile for you.





あとがき。
このタイトル、気付いた人もいるかもしれませんが、RA/Dの曲の『俺/色ス/カイ』のパクリです…。
すみません…;;でもRA/D大好きすぎて…!!

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