「田島くん見てると、なんか元気でない?」
お弁当の時間、私達はいつもの女子4人で机を合わせていた。同じ9組になって、席が近いのもあって、すぐに仲良くなった。そんな風にいつものように、食べながら話していると(むしろ、話しながら、食べている。のほうが正しいかもしれない)、横に座っている子が、野球部の集まっている机に目を向けながら言った。他の子 も「わっかるー!いつも元気だよねー」と賛同している。でも私はそれを肯定できず、なんとなく笑ってやり過ごした。
野球部はなんだかんだいって、常にクラスで目立っているからか、話題になることが少なくない。それはただの世間話だったり、時には恋バナとしてだったり、だ。
特に田島くんは色んな意味で目立っているから、よく話題に上る。もともと落ち着きのない性格のうえ、あらゆる爆弾発言からか(主に下ネタ。なのに許されてしまうから恐ろしい。)、年下のような雰囲気を醸し出している。ところが野球になると打って変わって真剣な表情になるギャップがたまらないらしい。女子にはクラス メイトとしても恋愛対象としても人気だ。
ただ、私は彼の明るい声が聞こえると、なんとなく元気がなくなる。憂鬱、とまではいかなくても、気持ちがマイナスの方に向くのだ。嫌いという訳ではないのに。
多分、田島くんが太陽みたいだから、だと思う。私には眩しいほどに、輝いて見える。田島くんと、田島くんみたいに秀でているものがない平凡な自分を比べて、自分に嫌気がさす。
私は小学校も中学のときも、よく言う、『普通』とか『平凡』とか。クラスでもいわゆる『その他大勢』に含まれる人間だった。昔からその『普通な自分』がコンプレックスだったかというと、そういう訳でもない。私は今まで普通でそれなりに満足していた。といっても、テストでの点数を見て、もっと頭がよくなんないかなぁ… なんてことは思ったけど。でも、変に目立ちたくないし、自分は『普通』でいい思っていた。思っていたはずだった。田島くんに会うまでは。
田島くんに出会ってから、私の中の何かが変わったのかもしれない。今まで、こんな気持ちにはならなかった。
「それってさー、要はその タジマくん が好きなんじゃないの?」
「・・・誰が?」
私が返した言葉に友達がため息と共に言葉を返す。
「あんただよ」
日曜日の昼時のファミレス。久しぶりに会った中学の時の友達に、(高校が違うから会うのは二ヶ月ぶりくらい。高校生にとっては十分久しぶりだ。)同じクラスの野球少年の話をした。ついでにその出会いによる私の心境の変化も。それに返ってきた友人の答えは私の考えから遠く離れたものだった。
昼時のファミレスはあたりまえだけど、人が多く、注文をするときのボタン(名前は知らないけど)のポーンとどこか間の抜けた音や、話し声や食器の音が溢れていて、私に耳にも溢れるほど音が入ってるような気がした。それでも、目の前の親友の口から出た音は、どの音よりも早く、私の耳を目掛けて飛び込んできた。
「だからさぁー、が、タジマくんを、好きなんじゃない?」
「私が?田島くんを? ・・・なんでよ」
今までの話を聞いてどこにそういう要素があったのか。もしかしたら途中で関係ない話を混ぜちゃったかな。なんて考えていたけど、また友達が口を開いたので考えるのをやめた。
やっぱりそんな要素の話してないはずだ。
「なんでって言われても…。はさ、タジマくんの声を聞くとなんかテンション下がるんでしょ?」
「…まぁ。下がるっていうか、なんとなく元気ではなくなるような…」
「でもタジマくんが嫌いとかじゃない」
「うん」
「どちらかというか好き?」
「好きか嫌いかと言われれば、好きかな」
「んで、テンション下がる理由はタジマくんと自分を比べちゃうから」
「いや、だからテンションが下がるっていうか、なんとなく元気がなくなるってことで…」
「そこはいいから!比べちゃうからなんでしょ?」
「(無視された…)うん」
次々出される質問に、なんか誘導尋問みたいだ。なんて思いながら、昨日の二時間ドラマを思いだした。あのドラマもこんな尋問のシーンが出てきた。あとカツ丼も出てきた。いくら暇つぶしにしても、あのドラマは面白くなかったな。二時間ドラマってなんで最後の犯人の自白シーンは絶対に崖なんだろう。氷で大分薄まっ たオレンジジュースのストローを吸う。不味かった。
「ほら、やっぱ好きなんじゃない?」
「・・・なんで?」
なにが「ほら」なのかさっぱり分からない。私にはさっきの質問になんの意味があったのかすらいまいちよく分からない。でも、目の前の刑事、もとい友人はさっきの尋問から答えがでたらしい。すっきりしたような顔で私の薄味のオレンジジュースに手を伸ばす。
「なんで私が田島くんを好きだと思ったの? …あ、それ不味いよ」
「だからさぁは…うわ、まずっ!」
「(言ったのに…)だから?」
「だから、はタジマくんと自分を比べて、釣り合わないって考えるからへこむんだよ」
「だから、へこむんじゃなくて、なんとなく元気がなくなるんだって…」
私の小さな訂正を聞くつもりもまったく無いらしい、友人はまだ、私の手にある薄味オレンジの入ったコップを見ながら「それホントに不味いなー。よく飲めるねー」とオレンジジュースを非難していた。再チャレンジしたら薄味も悪くないと思った。慣れれば逆にアリかも。
今度は自分のアイスティーを飲みながら、友人はゆっくり、考えるように喋りだした。
「つり合うとかつり合わないとか考えなくていいんじゃない?」
「別にまだ好きだと決まった訳じゃ…」
「それに心配しなくてもは全然普通じゃないし。十分変人だから。安心して」
また無視された…。ってゆーか、変人って…失礼な。
次の日の月曜。今日は一ヶ月に一回の席替えの日だった。正直席替えは乗り気じゃなかった。私の今の席は廊下側の後ろから二番目。ここの角度だと少しぐらい寝てもバレないから結構気に入っていた。しかも前の席の男子は背が高いから、余計先生から見えづらい。次、一番前とかになったら最悪だ。でもあまりいい席ば かり続くことはないだろう。私はくじ運まで良くも悪くもない『普通』なのだ。だから、私より先にくじを引く人間ができるだけ前の席を埋めますようにー。と念を送ることにした。そしてついに私の番。
全員引き終わり、先生の掛け声と一斉に机を運ぶ騒音が教室中に響く。がーがーと自分の机を引きずりながら次の自分の席の場所を目指す。途中何人かと、「先どーぞ」なんて譲り合いをしながら窓際前から三番目に辿り着いた。今回は微妙な席だった。でも窓際だからいいかなぁ。なんて考えていたら、前に田島くんがいること 気づいた。
その背中を見ていたら、自然と昨日の親友のセリフが思い出させた。
『だからさぁー、が、タジマくんを、好きなんじゃない?』
そうなのかなぁ…?そう言わせるとそんな気もするような…。あの友人が言うとなんだかそれが正論に聞こえてくるから不思議だ。でも確かに、田島くんを見る度感じていた、モヤモヤした気持ちも自分に感じる劣等感のようなものも全部説明がつく気がした。
つまり私は…田島くん、が好き…なの、か?
凝視しすぎていたせいか、田島くんがなんの予兆もなしに急に振り向いた。あまりに突然で目を逸らすことも忘れてしまったほど。
「後ろの席か!よろしくな!」
「うん!よろしく」
ヤバい。思ったより顔が近い。変な顔してないだろうか。
「ってか田島くん…私の名前覚えてくれてたんだ…?」
「さすがにオレでもクラスメイトの名前ぐらい覚えてるって!」
そう言って田島くんは太陽みたいに笑う。急上昇する体温。心臓が跳ねる。田島くんが笑うたび、胸の内に感じていたのは、痛みじゃなくて、むしろ高鳴りだったんだ。きっとこれが恋に落ちる瞬間。いや、多分もっと前からずっと惹かれた。
だからこんなに輝いて見えるのは、
恋の再確認をしたせいだ。
恋の再確認
その後授業中に、見事正解を言ってのけた友人に、先生に隠れてメールを送った。
「私やっぱ、田島くん好きかも」