俺とは、同じ1年7組だ。
ははっきりと物が言える奴なのに、俺には全然そんなんじゃなかった。
普段から「ハイテンション」という言葉が似合う人間ではないけど
俺と話す時は何つーか、急に元気がなくなったように見える。
それが嫌だった。見ててイラついてた。
でも、何だったんだろう。
突然気づいた。コイツが好きなんだな、と。
自分で意味がわからなかった。何なんだお前は。
でも、ちゃんと話して欲しいと思った。ちゃんと、話したいと思った。
そんな風に思うようになったある日の放課後、部活のない日。
目の前に缶ジュースが付きつけられた。

缶ジュースを掲げてにやぁっと笑っているのは水谷。
隣には花井がいて、何だか嫌な予感がしたので立ち去ろうとしたら
篠岡に捕まった。いつの間にか、
会議でも開くのかと思う程机がきちんと並べられていた。

「まぁまぁ、ね!座って」

「ほらほら」と篠岡がせかすので、言われるがままに座ってしまった。
すばやく花井が前に座り、続いて水谷と篠岡が席に着いた。
先ほど付きつけられた缶ジュースが、コツンとアルミと木がぶつかる音を立て
またもや俺の前に置かれた。何なんだこれは。思ったまま質問すると
「へへっ!飲めよ、俺らのおごりだ!」と水谷が誇らしげに言った。
缶ジュース一本を三人で割り勘って…どんだけケチぃんだよ。

「でさ、本題なんだけどよ」

と言うと花井は自分の缶ジュースをぐびぐびと勢いよく飲んだ。

「お前のことどう思うよ」

衝撃が走った。ヤバイ、逃げたい。
バレてた?いや、バレてるのか?
数秒の沈黙の後「別に…」と言った。
「おいー、別にじゃねぇよー」と水谷が言ったと同時に
目の前の缶ジュースが開けられた。
飲め、という意味なんだろう。でも飲んだら終わりだというのもわかっている。

「よし、わかった。
回りくどい聞き方はやめよう」

篠岡がビッと人差し指を立てた。

のことが好きですか、嫌いですか!」

帰らせてくれ…。
この後も質問攻めにあい、どう逃げようか考えまくった。
やっぱり奴らは俺の本心に気づいていた。
結局、俺は逃げる事ができずに吐かされた。
話し終わった後、缶ジュースを一気に飲み干してやった。
あー、ウッゼー。
何日か後にに呼び出され、告白された。
何がなんだかわからずにいたが、もちろん答えはyesだ。
は「前から好きだった」と言っていたので本当にびっくりした。
「嫌われてんのかと思ってた」と言うと「知ってた」と苦笑した姿がかわいかった。

こうして、あの三人のサポートを受けて俺たちは晴れて付き合うこととなった。
後に「あの質問攻めはに頼まれてやったわけじゃないからね」と篠岡が言っていた。

そして今日が初めて出かける日だ。
『出かける』じゃなくて、正確には『デート』なんだけど…。
その響きが妙に苦手で、口にはしない。したくない。
少し前に到着したのに、はすぐにやって来た。

「どこ行こーか」

とりあえず今日は買い物だ。
最初は動物園だ何だって案はあったけど、
俺はそういう所嫌いだしもあんまり好きじゃないらしい。
とりあえず雑貨屋に入った。
女ものばっかりで、俺には御用のない雰囲気がそこら中にたちこめていた。
でもが楽しそうにしているので別に暇でもない。
って、おい。いなくなってんじゃん。「…?」と声を出した時、気づいた。
しゃがんでたのか。何だよふざけんなよ。
「どったの?」と上を見上げるしぐさがかわいかったので何だかムカついた。
一瞬焦った俺の気持ちもしらずにコイツは…。
べしっと頭を叩いてやった。心配かけさせたお礼だアホ。

は何枚ものポストカードを目の前に並べて眺めていた。
うーんとうなっている。迷ってるのか。
ふうん。コイツ意外と優柔不断なんだ。
こういうとき、何も言わないでぱっと買ってやたら『カッコイイ』んだろうな…。
…できねぇ。ムリだ、ハズすぎる!
突然、何かを思い出したかの様にが立ち上がった。
あまりに突然だったので驚いた。
すると「他の店に行こう!」とずんずん出て行ってしまった。
気ぃ使わせたかな。あー、俺って最低。つまんなかったじゃないんだけどな。

それからは何件か店を回って、昼飯食って、ぶらぶらした。それだけ。
今はを家まで送るためにバス停まで歩いている。
しかしコイツよく喋るなぁ。ちょっと前まではあんなに喋んなかったくせに。
俺は携帯をいじり始めた。俺たちの間にピッピッと電子音が鳴り響く。
「貸して」と右手を出した。唐突だったのでは不思議そうにしていた。
この一言で通じないことはわかっていたので「けーたい」と付け足した。
あまりストラップが付いていないシンプルな携帯が差し出された。
赤外線で俺の携帯からの携帯まで二枚画像を送信。
携帯は持ち主へ無事戻された。

「なに?なにしたの?」

「マイピクチャ見てみ」

言われるがままにマイピクチャを開いて、
はにっこりとこちらを見た。
やめろよ、照れるから。

「いつ撮ったの?」

携帯をこちらに見せながら聞いてきた。

「さぁ?」

けらけらと笑う顔が夕焼けの光によく映えた。
は「ありがとう」といいながら、待ち受けにしている。
さっき迷っていたポストカードはすべて空だった。
だから、に気づかれないように青空と夕焼けの写メを撮っておいた。
だって、さっき――

「さっき買ってやれなかったから。
俺はさ、あーいうお前が迷ってる時に
ぱっと買ってやるような…その、『カッコイイ』ことできないんだよ。
…ハズくて。だから、写メだ。悪ぃな」

自分の体温が普通じゃないのはわかった。
熱い、物凄く。どうやらも同じようだ。
突然、がふぅっと息を吐くと

「カッコイイよ!阿部君すんごくカッコイイ!
今のままでお願いします。ホント、現状維持で!」

の左手が俺の右手を握っていた。
あぁ、今日実はずっと手ぇ繋ぎたかったのに。
コイツは軽くやってのけるんだな。情けねぇー…。
と思っているときに気づいた。
…異常なほど手、熱くないか?人のこと言えねぇけど…。

もしかして、勇気だして頑張ったのか?




現状維持







-Powered by HTML DWARF-