※少しホラー的な要素があります。
 苦手な方はご注意ください。




―――チャットルーム・夜―――


甘楽≪もうちょー可愛いんですよぅ!えへへ≫

田中太郎【へー。甘楽さんの彼氏さんって可愛いタイプなんですか】

甘楽≪んーと、かっこいいとこもあるんです!≫

甘楽≪いつも私が会いに行ってもあんまり構ってくれないんですけど…≫

甘楽≪そこもクールでかっこいいんです☆≫

セットン[なんだか甘楽さんの思考回路Mっぽいですね]

田中太郎【たしかにw】

甘楽≪もう!いくら私達がラブラブだからって嫉妬はよくないですよ!≫

セットン[いえ、嫉妬はないですw]

田中太郎【っていうか、いつもの話からして】

田中太郎【構ってもらえないのって単純に嫌われてるんじゃ・・・】

甘楽≪そんなことないですよぅ!私達はちゃんと愛し合ってるんですっ!≫




そこで今まで高級マンションの一室に軽快に響いていたタイピング音が止まった。



「俺たちはちゃんと愛してあっている。ねえ、そうだろう?



頭に浮かんだ彼女の姿に優しく問いかけた。
人間を愛しても個人は愛さない。それが『折原臨也』だったはずなのに、いつの間にか自分でも笑えるくらいに、ただ純粋に彼女を愛し、思いやっている自分がいる。
俺を知っている人間が見たら、驚愕するか馬鹿にするだろう。
それを想像しても、心地よくすら感じるあたり、かなり末期症状のようだ。




セットン[同棲とかはしてないんですか?]

甘楽《そろそろ一緒に暮らしたいなーって思ってるんですけど…》





は大学の学費を自分で稼ぎながら、池袋に一人暮らしをしている。
新宿から池袋まではたった四駅だというのに、になかなか会いに行けないでいる。
シズちゃんに見つかると面倒だからという理由もあるが、一番は違う。



には裏の世界のことを知ってほしくないからだ。



俺は職業柄恨まれることが多い。
だからといってこの仕事をやめようという気なんて更々ないのだけど。
俺は恨まれようが憎まれようが、そんなことはどうだっていい。
でも、だけは巻き込むわけにはいかない。



俺を敵に回そうなんて考える人間なんていない、とは言い切れない。
もしかしたら、俺を恨む人間がを人質にするかもしれない。


粟楠会や本格的にそっちの世界の人間は大事な情報源を切る理由はないから、そこは平気だ。
シズちゃんは…平気だな。あの化物がそこまで頭が回るわけがない。
もし、そんなこと考えるとしたら、池袋の街を同じ色同士で群れてる連中だ。そんなことをするのは馬鹿しかいない。少し賢い人間ならそんな方法は使わない。


でも、だからこそ心配だ。
馬鹿な連中は後先を考えないし、を巻き込むことが俺をどれだけ怒らせるか分かっていない。



だから、俺はと外で会わないようにしていた。基本的に夜中に、俺がの家に出向くことにしている。
しかし、そうすると必然的に会える時間は短くなる。
彼女は会えなくて寂しいとかわがままを一切言わない。有難いが、それはそれでこっちが寂しい。もうちょっとわがままを言ってくれてもいいんだけどなあ。




そんな時、携帯とパソコンの有り難さを仕事とは違う形で思い知らされる。

電話での声を聞けば会えない寂しさも消えていく。
はあんまり長電話が好きではないみたいだが。

それに、メールや電話で安否を確認できる。自分でも過剰すぎると分かっているが、不安がつい俺にメールや電話を掛けさせる。一日のメールや着信は相当な数になっているだろう。


そろそろうんざりされるかもしれないな。そんなとき、ふと思いついた。と一緒に暮らせばいい。
そうすれば心配事も無くなるし、何より一緒に居る時間が増えるし、俺にとっては一石二鳥だ。
にとっても家賃や水道代や光熱費が浮いて、学費を自ら稼いでいる身としては相当負担が減るはずだ。


それから今まで、何度も提案してる。でも、から期待している返事が返ってきたことはない。
自分のことは自分でやらなきゃ気が済まないってことなんだろう。
はそういう性格だ。努力家でさらに頑固。
むしろ俺が同棲を勧めれば勧めるほど、その態度は頑なになっていった様に思えた。



「でも、やっぱり一緒に暮らしたいよなあ」



俺は昼に見たの瞳を思い出しながら、もはや癖のような歪んだ笑みを浮かべながら、ぼやいた。







甘楽《そういえば、今日はお昼にダーリンに会っちゃったんですよ!!》

セットン[デートですか?いいですね]

甘楽《デートじゃなかったんですけど…》

甘楽《今日はちょっと池袋に用事があって、そのときに見かけたんです☆》






あの時確かにと目があった。でも仕事中だった俺はそのまま通り過ぎていった。との関係が知れたら、会わないようにしていた努力がまったく意味をなくすからだ。

―――、怒ってるかな?
そういや、メールも返ってきてない。
これはフォローしにいったほうが良さそうかな?







甘楽≪すみません☆今日は用事があるので、そろそろおちます≫

田中太郎【あ、おつかれさまです】

セットン[もしかして、例の彼氏さんのところですか?]

甘楽≪キャッ!恥ずかしくて言えませんよう!≫

田中太郎【アタリですねw】

セットン[本当に仲がいいですね]

甘楽≪セットンさんこそ恋人とラブラブじゃないですか!≫

セットン[えええ!?ちっ、ちがいますよ!私はそんなんじゃないですって!]

甘楽≪ふふう♪甘楽ちゃんに隠し事は通用しませんよ≫

甘楽≪あ、いけない!これ以上待たせるのは可哀想なんで、もうおちますね≫

甘楽≪じゃあ、おやすみなさーい≫

田中太郎【おやすみなさい】

セットン[おやすー]


―――甘楽さんが退室されました―――







すぐにいつもの黒いコートを手にマンションを出た。
大通りで、タクシーを呼び止める。
乗り込みながら行き先を告げ、ついでに「ちょっと急いでもらっていいですか」と付け加えた。
窓の外の、闇と光が入り混じり流れる残像を眺めながら物思いに耽る。


――あぁ、もう少しで会える。






セットン[そういえば、最近物騒な事件おおいですよね。今日のニュース見ました?]

田中太郎【見ましたけど…何かありましたっけ?】

セットン[たしか神奈川でだったと思うんですけど…殺人事件ありましたよね?]

田中太郎【あぁ!!女子大学生が殺されたとかいうやつですよね】

田中太郎【まだ若いのに…可哀想ですよね。犯人捕まったんですか?】

セットン[捕まったみたいですよ。同じ大学の男だとか…]

田中太郎【なんか恨みでもあったんですかね】

セットン[いや、それが違うみたいで…]







のアパートに面する道は狭いので、ひとつ横の通りで降りた。
アパートの前に来ればの部屋の電気が点いているのが見えた。よかった、まだ寝てない。
コートのポケットから合鍵を取り出し、ゆっくり鍵穴を回す。
ドアノブに手を掛ける。
その時間を楽しむかのようにゆっくり扉を開ける。


、会いたかったよ」

「えっ…」



は俺の訪問が信じられないとでもいうような顔をした。
身体も動かさず眼球をこちらに固定したまま動かなかった。
今日の昼の出来事を思い出す。
あぁ、そうだった。思いっきり無視したからね。
困惑するのも無理ないかもしれない。


、ゴメン。無視したわけじゃないんだよ」

「だれ…?」

「やだなぁ。は恋人の顔も覚えてられないわけ?」







セットン[恨みとかじゃなくて…どうやらその女性に付きまとっていたみたいなんですよ]

田中太郎【元カレとかですか?】

セットン[いえ、女性とは関わりは無かったみたいなんですね]

田中太郎【じゃあ…】






は震える足で後退りしながら、俺に向かってヒステリックに叫ぶ。



「いつも部屋に入ってるのも、毎日電話してくるのも、あの『一緒に暮らそう』とかの気持ち悪いメールも全部あんたでしょう!?」






田中太郎【ストーカー?】







あはは、ひどいなあ。そんな言い方。


まるで俺がストーカーみたいじゃないか。







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